『復刊に夢をかけて』 − [この絵本が好き! 2006年版]寄稿文より
今から十二年前、四十五歳のとき会社勤めを辞め、残りの人生を賭けてやりたいことを真剣に考えました。そして三か月あまり図書館にこもり心が決まったのは、ある一冊の絵本との出会いでした。
瀬田貞二著『絵本論(福音館書店)の中で「行きて帰りし物語」の傑作と評されていた『あひるのピンの語』(マージョリー・フラック=文、クルト・ヴィーゼ=絵)です。
この本を読んでみたいと思ったことがはじまりでした。あまりに評価が高い絵本でしたので、すぐに見つかると思ったのですが、探し当てることができませんでした。
既に絶版になっていたからです。
世の中には、何らかの理由で絶版になり、子供たちの目に触れることなく消えてゆく本があることを知り、少部数でもいいから自らの手で復活させ、もう一度次世代の子供たちに手渡してゆくことに夢を賭けて見たいと思いました。
その後十一年間に、『シナの五にんきょうだい』『ことばのこばこ』『はんぶんのおんどり』ほか十六冊の児童書を復刊してきました。

特に昨年の岩波版『ちびくろ・さんぼ』の復刊は、会社創立以来から最大の企画でした。
この絵本が絶版になったとき、充分な議論がされず、読者にも納得いく説明がされないままに手に入らなくなってしまいました。今回当社が復刊しようした際、筆舌に尽くしがたい大きな試練があり、ようやく発売できたときは喜びより、ほっとした思いのほうを強く感じました。十七年振りの復刊がマスコミに取り上げられると、多くの読者から待ち望んでいたとの反響が寄せられ、その声にこたえるため初版部数は四万部となり、その後も増刷を繰り返し累計三十万部を突破いたしました。
発売後、今回の復刊にたいする批判、抗議を海外のサイトから一件受け取りましたが、私どもの考えを英訳しお返事したところ、その後は何もございません。国内では、中傷と思われるものが二件あっただけです。
昨年十二月には、岩波書店が絶版にするきっかけをつくった某団体から質問状が届きました。五項目にわたるご質問に回答し、私の考えを伝えました。
今後も、どんな批判や抗議があったとしても、絶版にすることなく、真摯に対応し、出版人としての信念を貫く覚悟でございます。これからも読者の皆様の復刊のご要望にできるだけお答えしてまいりますので、よろしくお願いいたします。
瑞雲舎代表 井上富雄

「この絵本が好き! 2006年版」より
※改行位置をWEB閲覧用に編集しています。
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